あてのない旅の物語−第4日目(3月13日、東萩駅〜荒尾駅)

山口県萩市
吉田松陰が幽囚されていた部屋 8時起床。8時30分頃チェックアウト。近くの貸し自転車を借りる。それにしても派手な色。スカイブルーというか、要するに鮮やかな青。
 9時前松陰神社。すでに修学旅行生がいる。女子校らしい。男が見当たらない。その辺一帯は、彼女らに占領されている。お土産屋なども全て陥落している。わたしのような孤独な人間が入れる余地は少しもない。
 わたしは修学旅行生があまり好きではない。彼らを見ていると、何故か落ち着かない。しかし、そのわたしも中学時代に修学旅行生としてここを訪れている。きっと、中学時代のわたしを今のわたしと同じ様な目で見ていた人がいたのだろうと思いながら、松陰神社を去る。
 派手な自転車で町を突っ切り、町の反対側の萩城趾へ行く。城趾付近を散策していると、旧厚狭毛利家萩屋敷長屋というものがある。ちょっと興味をそそられ入ってみる。入り口の料金所で、わたしと同じ自転車に乗っていた学生風の男性が、料金所の人の説明を熱心に聞いている。
 長屋は、入り口から奥の方に延びている。長屋そのものはあんまり面白くない。しかし、中の展示物で、1つ面白いものがあった。かご、である。江戸時代に、女の人が乗っていたかごである。テレビ等でしか見たことがなかったかごの本物が目の前にある。なんか、嬉しくなる。
 長屋を出て、萩城趾の中に入る。ここは、指月公園として整備されている。ここは、ほぼ何もない。濠と石垣が残っているだけである。「兵どもが夢の跡」を思い出す。茶室があり、抹茶を頂けるらしい。こんな機会は滅多にないので、頂くことにする。お茶請を出され、その簡単な説明を受ける。江戸時代のお茶会で使っていたのと同じものらしい。お盆の時、仏壇に飾るお菓子がある。菊の花等を模しており、わたしは「砂糖の塊」と呼んでいる。確か、「落雁(らくがん)」といっただろうか。そんな感じのお菓子である。しかし、味は格段に美味しい。当たり前といえば当たり前なのだが。
 抹茶は、目の前で点ててくれるわけではないらしい。「完成品」が目の前に出された。お椀を回している。テレビで見るのと同じだ。ということは、わたしも回さなければいけないのか。そう思っていると、「完成品」を持ってきてくれたおばさんは早々に裏の方に引っ込んでしまった。素人に対する配慮というものだろう。これで落ち着いて飲める。一応の作法みたいなものも聞きたいと思ったが、1人にされてしまったので、1人でおとなしくお茶を飲む。再びおばさんが出てきて、少しばかり世間話をする。わたしの持っていたカメラを見て、「撮ってあげましょうか」と聞かれたが、「これは自分を撮るものではないので」と言って断る。おばさんには申し訳ないが、一人旅をしている自分の姿を写真として残すのは耐え難い。抹茶の味は、緑茶から渋みを取ったような味だ。あまり、苦いとは感じなかった。
 すぐ横には、日本海が広がっている。今日も荒れている。「バカヤロウ!」と叫びたくなるような海だ。城下町を派手な自転車で走り、駅へ戻る。途中、今はほとんど見なくなった、円柱形のポストを見つける。
「円柱形のポスト」(右下の背景写真)
JR東萩駅11時39分発長門市行各駅停車
山口県長門市JR長門市駅
 ホームで、女子高生のグループが2つ、立ち話をしている。その間に挟まれるようにして、女の子が1人立っている。みんな同じ制服だ。別に、いじめられてるわけではなさそうだが、寂しそうである。
JR長門市駅13時16分発厚狭行各駅停車
山口県美祢市
山口県美祢郡秋芳町
長屋にあったかご 13時50分頃美祢駅到着。ここで、いくつか買いたいものがあったのだが、それを売っている店がない。時間もそれほど無い。それは、以前秋芳洞へ行ったとき買ったものだ。迷った挙げ句、秋芳洞まで行くことにする。バスで片道30分。
 秋芳洞そのものを見ている暇はない。買い物だけを済ませ、バスで駅まで戻る。秋芳洞付近の滞在時間、約10分。たった1つのものを買うためにここまでするかと、自分でも馬鹿馬鹿しくなる。
JR美祢駅16時57分発厚狭行各駅停車
JR厚狭駅17時25分発下関行各駅停車
JR下関駅18時06分発門司行各駅停車
JR門司駅18時33分発荒尾行快速(久留米より各駅停車)
 美祢からここまで、一気にやってきた。間髪を入れずに列車を乗り継いだ。おそらく、この旅で最も「忙しかった」かつ「つまらなかった」区間だろう。何せ、時間がぎりぎりなのだ。美祢駅で時刻表を写した紙を見ながら、車掌が言う乗り継ぎ案内に耳を傾け、ホームの発車時刻表で確認する。時刻表を写すとき慌てていたせいだろう。いつの間にか、その紙は役に立たなくなっていた。紙に書いてある時刻と、ホームの時刻表にある時刻とが一致しないのである。
 ラッシュアワーと重なってしまったらしい。小倉駅で人が山のように乗ってくる。折尾駅で駅弁を買おうかと思っていたが、それどころではない。博多駅が近づくにつれ人は減っていったが、博多駅でそれ以上の人が乗ってくる。旅の最後がこれでは、あまりにも情けない。
 途中、駅のホームでコンタクトレンズをはずしている大学生ぐらいの女性を見つける。荷物、格好からすると、一人旅をしているようだ。
熊本県荒尾市JR荒尾駅
 21時10分頃荒尾駅到着。次の列車は、21時31分発の特急。18きっぷで乗れる各駅停車は22時01分。とりあえず、上熊本駅までは戻れる。各駅停車で約45分。しかし、駅から自宅までのバスがいなくなる可能性がある。駅から自宅まで、それほど遠いわけではないのだが、とても歩ける状態ではない。
「もう、最後だし...」
特急に乗ることにする。
 改札を出る。18きっぷを使うのはこれで最後だ。自動発券機で、上熊本駅までの乗車券と特急自由席乗車券を買う。それを使って、再びホームへ。

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