あてのない旅の物語−第3日目(3月12日、松江駅〜東萩駅)

島根県松江市
 駅舎から追い出され、あてもなく彷徨う。駅の東側を北に進む。何もない。ファーストフード店も日付が変わると同時に閉まったようだ。30分ぐらい歩いて引き返す。
 松江駅南口。電話ボックスの中で寒さを凌ぐ。しかし、寒いものは寒い。暇なので本を読む。しばらくすると、スケボーに乗った少年達が5人ほどやってきた。「何をやってるんだ」という目でこっちを見る。「何をやってるんだろう」自分でも分からない。電話ボックスの中で本を読んでいる人に対するスケボーに乗った少年達の反応。普通である。もし、わたしが彼らの立場であっても「何をやってるんだ」という目で見るだろう。その場の雰囲気が崩壊しないうちに電話ボックスを立ち去る。それにしても、何もない。
 2時頃。しばらく歩いて、食堂を見つける。そういえば、まだ夕食らしい夕食は取っていない。コンビニのおにぎりぐらいである。迷わず入る。5人用ぐらいの座敷に1人で座る。リュックとダウンコートを横に放り投げ、メニューを開く。鶏唐定食と、焼酎のお湯割りをたのむ。すぐにお湯割りが来る。それを飲みながら、次にどこへ行くか考える。しばらくして、定食も来る。テーブルいっぱいに、定食、お湯割りの入ったコップ、旅行雑誌を広げる。電話がかかってくる。今夜2度目。わたしのような馬鹿に深夜までつき合ってもらって、誠に申し訳ない。
 食堂も閉店しそうな感じになる。また、松江駅前へ行く。南口は恐い人がいそうなので、北口に行く。北口は工事の真っ最中で殺風景だ。4時過ぎ。ドアの前に座って本を読んでいると、作業服のようなものを着た20代半ばの男性が近づいてくる。18きっぷの旅かと聞かれて、そうですと答える。青森でピンク系のいい店を知らないかと聞かれるが、あいにくわたしはまったく知らない。青森など行ったこともない。そう答えると、1000円を渡されて、頑張ってください、といわれる。1000円は、一応遠慮するが、それでもと言うのでありがたく頂いておく。さらにその男性、あっちにも同じ人がいると言って、その人の所までわたしを連れて行く。
 千葉から来て、山陰地方を回っているという21歳の大学生。男性。わたしと同じ18きっぷの旅。その人も、1000円をもらっていた。コンビニが少ない、工事が多い、そういう話に始まって、話の流れは次第に九州、熊本のことに。
 5時。駅が開く。2人で待合室に行く。外よりましだが、やはり寒い。彼は天国だと言ってご機嫌である。やはり関東の人間、わたしより寒さに慣れているのか。わたしは、このあと出雲に行くことにしている。彼も出雲に行くらしいが、JRは使わないのだそうだ。出雲で会えたら会おうということになって、彼と別れる。再び1人になる。
JR松江駅7時39分発益田行快速石見ライナー
 昨晩は全く寝ていない。列車に乗ると同時に眠ってしまう。目が覚めると、大田市駅を発車するところだ。寝過ごした。別に、お金を余分に取られるわけではないので大したことではないのだが、時間が無駄になる。朝の彼ともこれで会えなくなっただろう。とりあえず、次の停車駅で降りる。
島根県邇摩郡仁摩町JR仁万駅
 9時20分。何も分からないところに降りてしまった。外は小雨。寒い。駅から外へ出る気はしない。次の列車まで1時間弱。暇でしょうがない。やはりどこか行こう。駅前の案内板を見る。何もない。あるのだろうが、そこには書いてない。手持ちの旅行雑誌にも何も書いてない。道に迷って、列車に乗り遅れるのもいやだ。明日中に熊本に帰らなければいけないことを考えると、下手なことはできない。結局、駅で本を読む。
JR仁万駅10時09分発出雲市行各駅停車
島根県出雲市
島根県簸川郡大社町
出雲大社神楽殿 11時過ぎ出雲市駅到着。出雲大社に行こうと、駅前からバスに乗る。しかし、乗り間違える。途中、「出雲大社」行きのバスとすれ違い乗り間違いに気付く。次の停留所で降りて、バスを乗り換える。
 「出雲大社」行きのバス。運転が荒い。急発進、急停止、見切り発車は当たり前。信号待ちの間も完全に停止せず、微妙に前に進んでいる。遂に、無線用のイヤホンを耳からはずし振り回しはじめた。とんでもない運転手である。
 出雲大社。思ったほど人は多くない。神楽殿の大注連縄の大きさに驚く。5円玉を放ってお参りをする。隣では、手を何回もたたいたりお辞儀を何回もしたりといかにも本式らしくやっているが、わたしはそんなやり方を知らない。無難に、パンパンと手をたたきお辞儀を1回する。その後、大注連縄に10円玉を放る。5円玉でやりたかったのだが、残念ながらもう10円玉しかない。下から投げて、縄にうまく刺されば成功。20人ぐらいが、次々と硬貨を投げる。案外難しいらしい。そう思ってやってみると、2回目に成功した。それほど難しくない。
 拝殿、本殿と回り、鳥居をくぐって参道に出る。名物のそばを食べに行く。「行く」と言っても適当なそば屋に入るだけだ。もっとも、この辺で食べ物屋といえば、そば屋ぐらいしかない。割子そばはやめて、「温かいそば」(店のおばちゃん談)をたのむ。生卵、山芋などが入っている。そばの味はうどんの味以上に分からない。不味いものを見極めるのは簡単だが、美味しいものを見極めるのは難しい。本当は極上品なのかも知れないが、わたしには不味くないということしか分からない。
 そば屋の道向かいにある酒造にも寄ってみる。店のおじさんに話を聞く。簡単な酒の作り方なども教えてもらう。大吟醸を勧められるが、やや高め。涙をのんで清酒にする。
 さて、JR出雲市駅まで戻らねばならぬ。暴走バスは、もうごめんなので私鉄で行くことにする。運転手が、某先輩によく似ている。
JR出雲市駅14時49分発益田行快速石見ライナー
島根県益田市JR益田駅
 「お客さん、終点です」車掌に起こされる。終点まで乗る予定だったので、別に慌てることはない。しかし、恥ずかしい。目を擦りながらホームに降りる。時刻表を見る。列車が思っていたより少ない。乗り継ぎが不便すぎる。次の列車は約1時間後。それとも、わたしが寝ている間に出てしまったのか。とりあえず、何もない駅前を歩く。
JR益田駅18時03分発長門市行各駅停車
 単線。1両編成。ディーゼル。各駅停車。まさにローカル路線。日本海は荒れている。そこに夕日が沈む。
 隣で、おばさんが2人、話している。人の気持ちがどうとか...全てを悟りきっているかのようだ。
山口県萩市
 19時過ぎ東萩駅到着。萩観光など、とてもできる時間ではない。朝乗り過ごしたせいだ。今日は本当に寒い。例の如く街を歩いて、ファミレスを1件見つけるが、そのファミレスに7時間も8時間もいる勇気はわたしにはない。まだ、20時ぐらいなのに駅舎はもう閉まりそうな気配だ。ファミレス1件では、とてもこの夜は越せない。大金をはたいてビジネスホテルに泊まることにする。大金といっても4600円。ユースホステルに泊まってみたかったのだが、それは町の反対側にある。今更町の反対側まで行く気力はない。コンビニで買った夕食を片手に、駅前のビジネスホテルにチェックインする。

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